TPLO は、米国の故Barclay SlocumとTheresa Devine Slocum夫妻により1993年に考案された前十字靭帯断裂に対する手術法です。TPLOは、1990年代後半の欧米では最新技術として語られていましたが、2000年前後より中・大型犬種の前十字靱帯断裂に対する第一選択として認識され、多くの大学や専門病院で実施されるようになった術式です。TPLOは2000年中盤頃まではBarclay Slocumが術式を含めて特許を取得していたため、Slocum Enterprises社の認定を受けた獣医師のみが施述できる手術でした。日本でも何人かの獣医師が、当時からSlocum Enterprises社の認定を受けており、筆者も認定を取得していた獣医師でした。
2001年頃の日本では、TPLOやTTAを施術する施設は、私どもを含めて5施設前後で、国内の獣医師に一般的に知られた術式ではありませんでした。
2006年頃からTPLOやTTAは徐々に日本の獣医師にも知られるようになり、2009年には国内で第1回目のTPLOの講習会が開催されたことから、現在は一般的にも知られた術式となっています。
筆者は、2009年に日本国内で開始された獣医師向けのTPLO講習会から講師として参加しており、本術式の普及に努めています。また、イタリア、タイ、台湾、中国、韓国などでもTPLOの講演や実習の講師、執刀医として招聘されており、本術式に関しては、豊富な経験を有しています。定期的に欧米の専門施設でトレーニングを受けたり、米国の外科専門医を当院に招いて一緒に手術をしたりディスカッションを繰り返すことで、常に技術と知識のブラッシュアップに努めています。
また、2019年5月には、米国の学術雑誌であるAmerican Journal of Veterinary Research(AJVR)に、当院の関節鏡、TPLO手術の術後成績に関する論文が受理され掲載されています。
膝関節は、大腿骨と脛骨、膝蓋骨から構成されています。脛骨の上を大腿骨の丸い先端が滑り転がるように動いています。滑り転がるように運動するため、靭帯や半月板が膝関節を安定化させるために重要な役割を果たしています。
前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)は膝関節を安定化させているロープの様な構造で、前内側帯(craniomedial band:CMB)と後外側帯(caudolateral band:CLB)の2つより構成されています。犬の前十字靭帯断裂は発生頻度の高い整形外科疾患で、1歳齢を超えた殆どの犬種において後肢跛行の原因として経験されます。
前十字靭帯の部分断裂もしくは完全断裂が起こると、種々の程度の膝関節の不安定性、疼痛、滑膜炎が発現し、不安定性の放置は二次性の変形性関節症や半月板損傷を招きます。
- 脛骨の前方変位の抑制
- 脛骨の内旋の制限
- 膝関節の過伸展の防止
前十字靭帯(青矢印)、後前十字靭帯(緑矢印)、半月板(紫矢印)
前十字靭帯(青矢印)、後前十字靭帯(緑矢印)、半月板(紫矢印)、膝蓋骨(赤矢印)、大腿骨(橙矢印)、脛骨(茶矢印)。
ラブラドール・レトリバー、3歳齢の右膝関節。
前十字靭帯(ACL)、後前十字靭帯(PCL)、前内側帯(水色点線)、後外側帯(赤点線)
ラブラドール・レトリバー、3歳齢の右膝関節。
前十字靭帯(ACL)、後前十字靭帯(PCL)。関節内探索用のプローブ(黄色矢印)にて後十字靭帯を避けて、前十字靭帯のみを観察しています。
ラブラドール・レトリバー、3歳齢の右膝関節。
異常のない半月板がみられます。
半月板は大腿骨と脛骨の関節面をフィットさせる機能をもちクッションの役割をはたしています。
前十字靭帯断裂による関節の不安定性が持続すると半月板損傷を招きます。
- 歩き方がおかしい、おかしい時がある
- 左右不明であるが、歩き方がおかしい
- 最近、散歩を嫌がる
- ボール遊び中などに、急に“キャン”と鳴いてから後肢挙上、後肢を引きづる
- 散歩中、他の犬にじゃれつかれて、じゃれつこうとして“キャン”と鳴いてから後肢挙上、後肢を引きづる
- 庭などで遊ばしていたら、気がついたら後肢挙上
- 膝が腫れてきた ・ 若齢時より股関節形成不全(CHD)で、中・高齢になり急に歩き方がおかしくなった
- 時々、後肢の挙上や跛行を示すが、数日で改善する
- 主訴、歩様の確認、視診、触診
- 前方引き出し検査(cranial drawer test)
- 脛骨圧迫試験(tibial compression test)
- 関節包内側の線維性肥厚(medial buttress)
- お座り試験(sit test)
- 関節液細胞診検査(単核細胞の増加)
- X線検査(関節液増量像、脛骨の前方変位、骨増殖体などの変性性変化)
- フォースプレート歩行解析(当院では可能ですが、一般的には行われません)
- 関節鏡検査
- CT検査
●股関節形成不全(CHD)
●膝蓋骨脱臼
●腫瘍性疾患
●脛骨矯正骨切り術
TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)
aCBLO(CORAによる水平化骨切り術)
TTA(脛骨粗面前進化術)
●LSS(関節外安定化術)
●小型犬・猫の前十字靭帯断裂
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