内視鏡は、消化管内視鏡に代表される軟性鏡と、関節鏡や腹腔鏡に代表される硬性鏡があります。腹腔鏡で用いる装置は、数個の装置で構成されています。下記は腹腔鏡システムの一例です。(1)モニター、(2)カメラコンソール、(3)光源、(4)記録装置、(5)気腹装置で構成されています。これ以外にも様々な装置や器具を使って手術を行います。
下記は、腹腔鏡手術前の様子です。腹腔鏡を行う際には、モニターを2つ用いて行うことが多いです。
腹腔鏡手術では、まずお腹に3-10mm程の小さい傷を開け、そこにトロッカー と呼ばれる器具を挿入します。このトロッカーから二酸化炭素(炭酸ガス)を腹腔内に入れること(気腹といいます)で、お腹を膨らませて手術を行っていきます。また、トロッカーは、鉗子などの器具をお腹の中に入れるのを助ける役割もあります。腹腔鏡手術は、お腹の中に作業スペースを作り、手術を行いやすいようにするため、必ず気腹をして手術を行います。
(a)様々な種類のトロッカーを状況に分けて使い分けています。
(b)実際にトロッカーを挿入している様子
(c)トロッカーを挿入し、お腹を観察している様子
腹腔鏡手術には、開腹手術と比べて、メリットとデメリットがあります。
①痛みが少ない
痛みが少ないため、術後早期に普段の生活に戻ることが出来ます。
②傷が小さい
傷が小さいため、術後服を着せるだけで、エリザベスカラーを装着する必要がありません。
③臓器を無理に引っ張る必要がない
臓器を無理に引っ張ることで起こる術後の痛みを防げます。
④お腹の中を拡大してみることができる
カメラで拡大して臓器をみることで、肉眼では判別できない臓器の変化を観察することが出来ます。
⑤手術部位の出血確認がしっかりと行える
カメラで拡大してみることで、手術部位の出血がないかをしっかりと確認できます。
⑥同じ傷の大きさで他の臓器の手術(生検など)を同時に行うことができる
避妊手術、膀胱結石の摘出手術、肝生検など複数の手術を同時に行うことが出来ます。
①高い技術が必要
当院では、様々な講習会や学会などに参加し、技術や安全性の向上に努めています。
②腹腔鏡にあった麻酔管理が必要
当院では、毎月、長濱正太郎先生(VAS小動物麻酔鎮痛サポート)に麻酔管理の技術指導を行っていただいています。
③開腹手術に比べて費用が高い
症例により腹腔鏡手術を適応できない場合がございますので、手術前にはよく相談させて頂き、手術方法を決定致します。
卵巣子宮摘出術、潜在精巣摘出術、胆嚢摘出術、門脈体循環シャント結紮術、胃固定術、消化管内異物摘出術、腎臓摘出術、副腎摘出術、脾臓摘出術、膀胱結石摘出術、肺葉切除、心嚢膜切除術、乳び胸に対する内視鏡外科手術、組織生検など
注意
以下のベージには、実際の術中写真が掲載してあります。気分が悪くなる方は、閲覧しないように注意して下さい。
腹腔鏡下にて卵巣と子宮を摘出する避妊手術のことで、動物の負担をできるだけ少なくすることを目的に考案された手術方法です。現在、避妊手術を行う動物が増加傾向にあります。以前は避妊手術は開腹手術しか行われておらず、痛みが強い場合、動物に対する負担が大きくなりがちでした。その点、腹腔鏡下卵巣子宮摘出術は、開腹手術と比較して傷が小さく、痛みが少ないなど様々なメリットがあります。
開腹手術の傷です
腹腔鏡手術の傷です
患者さんの大きさや術式によって変化しますが、開腹手術は5-10cmくらいの傷が1箇所残ります。腹腔鏡下卵巣子宮摘出術では、3-8mmくらいの傷が3箇所残ります。
犬は生後間もなくして、お腹の中にある精巣が体外に下降します。しかし中には、精巣がお腹の中にとどまってしまうことがあります。これを、腹腔内潜在精巣(陰睾、停留睾丸)と言います。腹腔内潜在精巣は、通常の精巣よりも腫瘍になるリスクが高くなると言われており、また腹腔内潜在精巣の犬は繁殖には適さないため、去勢が推奨されています。
開腹下による精巣の摘出術は、陰茎の横を4-5cm切開して行います。通常の去勢手術とは異なり、開腹し傷も大きくなるため、より痛みを伴います。腹腔鏡下による精巣摘出術は、3-10mmの大きさの切開をすることで、お腹の中で精管と血管の処理を行うことができ、同時に肝臓などの他の臓器の手術も行うことができます。
しています。上の2つの傷が腹腔鏡手術、一番下が下降している精巣の摘出手術の傷です。
犬や猫の尿石症は、膀胱や尿道に砂や石のような物質(結石)ができてしまう病気です。膀胱炎や尿道閉塞(尿道に結石が詰まっておしっこができなくなること)などを起こします。犬や猫で多い結石は、ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)、シュウ酸カルシウム、尿酸アンモニウムなどがあります。特に、ストルバイトとシュウ酸カルシウムは、食事、生活習慣、肥満などから起こることが多いです。ストルバイトは、フードを変更することで、マグネシウムを制限したり、尿を酸性にしたり、尿量を増やしたりすると、溶解出来ることがあります。しかし、フードを変更しても溶解しないストルバイトや、フードでは溶解することが出来ないシュウ酸カルシウムや尿酸アンモニウムは、一度結石ができてしまうと、手術にて取り除くしか方法はありません。
開腹下による膀胱結石摘出術は、5-7cmくらいお腹を開け、膀胱を切開します。目視で結石を取り除くため、膀胱も2-3cmくらいは開ける必要があります。しかし、それだけ開いたとしても、目視で結石を確認することは難しく、1-2mmくらいの結石は取り残すリスクがあります。
腹腔鏡を用いて膀胱結石摘出術を行うことで、お腹と膀胱は1cmくらい切開するだけで、手術ができます。また、カメラを膀胱に入れて結石を除去するので、小さい結石も見つけやすく、尿道の途中まで見ることができ、結石を取り残すリスクがかなり低くなります。
開腹手術の傷です
腹腔鏡手術の傷です
肝生検、腎生検、膵生検、腸生検、リンパ節生検などがあります。肝臓、腎臓、膵臓、腸管などの疾患は、血液検査や尿検査、画像診断(レントゲン検査や超音波検査など)などだけでは、診断をつけることが難しい場合があります。その場合、正確な診断を行うために、臓器の組織を採取し、病理組織学的検査を行う必要があります。以前は、組織を採取するためには、開腹手術で大きくお腹を切開していました。腹腔鏡下での組織生検は、3-8mm程の傷を2-3箇所つけるだけで行うことができるため、動物の負担を減らすことが出来ます。
動物は、石、ビニール、おもちゃなど食べ物以外のもの(異物)を飲み込んでしまうことがあります。胃内に異物がある場合、吐かせたり(催吐処置)、消化管内視鏡で除去したりします。それでも取り除くことが出来なかったり、腸管に異物があったりする場合は、手術で取り除く必要があります。腹腔鏡を用いることで、小さい切開で異物を除去することができ、動物の負担を減らすことができます。
自己免疫による貧血や血小板の病気や脾臓の腫瘤などにより、脾臓を摘出せざるおえないことがあります。特に、貧血や血小板の病気では、出来る限り出血をさせたくないため、手術で残る傷を小さくする方が、術後の管理が容易になることが多いです。腹腔鏡下にて脾臓摘出術を行うことで、開腹手術と比べて傷が小さくすることが出来るため、動物の負担が少なく、術後の治療も円滑に行うことができます。
胆嚢は、胆汁という消化酵素を貯留し、濃縮する働きを持っている臓器です。胆嚢粘液嚢腫、胆嚢破裂、胆嚢炎、胆石、胆泥症などの病気のために、胆嚢を摘出せざるおえないことがあります。胆嚢は、お腹の一番頭側にあり、肋骨で囲まれているため、開腹手術で胆嚢を摘出しようとすると、大きくお腹を開ける必要があります。そのために、術後の傷が大きく、動物の負担が増加してしまいます。腹腔鏡下胆嚢摘出術では、3-10mm程の傷を4つほどつけるだけで、手術を行うことが可能です。術後の痛みも少ないため、入院期間を少なくすることができます。
肺の腫瘍などのため、肺を一部分だけ切除することがあります。従来であれば、大きく胸を開ける必要がありましたが、胸腔鏡を用いることで、5mm程の傷を2-4個と3cm程の傷を1個つけるだけで、手術を行うことが可能です。傷が小さいため、痛みが少なく、術後合併症の発生を低くできます。